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お知らせ

摂食嚥下における在宅医療について

 5月の未来塾も、なるコミにおいて万全な感染対策を行いながら、なるコミ聴講(限定20名)とZoom研修でのハイブリッド研修を行いました。今月のテーマは、「摂食嚥下における在宅医療について」でした。講師は、酒井 章博先生(さかい耳鼻咽喉科クリニック 院長 )(以下、先生)にご講義いただきました。
今月の参加者は、Zoom参加者:11名(最大)・なるコミ聴講:12名:合計23名でした。
ご参加された皆さま、有難うございました。
 
 今月は、データーや動画を用いて、さかい耳鼻咽喉科クリニックの在宅嚥下障害診療について、在宅嚥下障害診療の臨床的効果、在宅嚥下障害診療のおける耳鼻咽喉科医の役割についてご講義いただきました。
 さかい耳鼻咽喉科クリニックは、在宅嚥下障害診療に加え、一般の耳鼻科疾患診療として、耳の詰まり、耳垢、耳垂れ等診察されています。今回、2014~2020年(7年間)の在宅嚥下障害診療往診・訪問診療データーが示され、その中で、毎年の件数増加、60歳以上が9割であること、基礎疾患として脳血管障害と加齢が約半数を占めていること等が分かりました。嚥下診療件数については、全体診療中の約50%にもあたり、ニーズの高さが理解できました。往診依頼は、訪問看護ステーションやケアマネジャー、介護施設等からが多く、初回の往診日は、担当関係者と情報と検査内容の共有のために、患者宅で集まることにしているそうです。患者宅では、毎日生活している場所での椅子やベッドを用いて検査を行うので、様々な改善策や方向性を本人・家族・担当者とその場で決められるというメリットが大きいとのことでした。その後、定期的な報告により、患者の状態の変化により再検査をし、必要であれば定期的に訪問診療をおこなうこともあるそうです。ちなみに、依頼時の情報のやり取りは、ホームページ上にあるweb問診を利用してもらうと便利であるとのことでした。
 2016~2020年(5年間)の往診患者110名の、在宅嚥下障害診療の臨床的効果についてご説明がありました。往診依頼の目的として、①現在の食形態や姿勢、摂食嚥下方法の確認・相談(摂食嚥下状態確認)、②食形態をアップしたい(食形態アップ)、③経口摂取を開始したい(経口摂取開始希望)があり、割合として、順に、摂食嚥下状態確認が約6割、経口摂取開始約3割、食形態アップが約1割であることが示されました。またそれぞれ介入前と介入後での臨床経過も示されました。中でも、経口摂取開始希望30名の方について、経口不可が11名の中、19名である約6割の方がゼリーやソフト食等を摂取開始できており、先生も、約1~3か月間隔で経過観察しているとのことでした。先生より、この効果が正しいか否かについては、医療職が決めるものではなく、患者や家族が希望すれば、たとえ一時的な食事摂取期間であったとしても、満足であれば意味のあることになるのではないだろうかと話されました。
在宅嚥下障害診療における耳鼻咽喉科医の役割についてご説明がありました。在宅医療では、主役は患者とその家族であり、耳鼻咽頭科医はサポート役である考えていると話されました。最も耳鼻咽頭科での重要な役割は、嚥下障害の病態診断であり、病態として、嚥下反射の惹起遅延とクリアランスの低下の大きく2つに分けられるとのことでした。退院時の往診において、食事摂取希望や形態アップを望まれるケースが多く、先生も感情面では摂取を応援したくことがあるそうです。が、客観的な嚥下機能診断に基づき、介護力や様々な環境を考慮し、安全で有効な摂食嚥下環境を考えることが耳鼻咽喉科医として役割であるとの話がありました。時には、家族や本人にも、一緒に内視鏡動画を見てもらい、リスク等も含め、説明し納得してもらうこともあるそうです。他にも、不安で恐る恐る食事介助しているご家族様に対しても、動画を見て理解していただき、危険な状態予測症状について説明することで安心した経口摂取をすすめてもらっているケースもあるとのことでした。実際の事例として、嚥下内視鏡の動画を用いての2事例紹介もありました。1事例目はALS患者であり、入院先の主治医からは、「経口摂取なんてとんでもない」と言われ、諦めていたが、自宅では娘の介護力のおかげで、食事摂取を行えていたケースの紹介でした。2事例目は、50歳で脳出血を発症し、社会復帰を目指している方で、入院先では、右側臥位・左頸部回旋状態でないと経口摂取は困難であると言われたが、本人の希望やリハビリにより、4か月後には座って食事をされ、現在は社会復帰されたケースの紹介でした。2事例に共通する耳鼻咽頭科医の役割として、様々な環境面を考慮して、リスク等を考えながらではあるが、患者や家族の考えを尊重していくことが大切であると話されました。
 最後に、耳鼻科医や周囲のスタッフの協力はもちろんではあるが、本人や家族の希望・協力・環境面のサポートにより、形態アップや経口摂取可能・継続できることに繋がり、生活の支えになっているということを学ばせていただきました。酒井先生、遅くまでありがとうございました。
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