5月の「医療と介護の未来塾」も、なるコミにて会場およびZoomのハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「すまいとすまい方を支える生活環境支援」で、講師は小林 大作先生((株)アシテック・オコ 代表取締役)(以下、小林先生)でした。今月参加者は、Zoom参加者:13名(最大)・なるコミ聴講:24名の合計37名でした。
ご参加いただきました皆さま、有難うございました。
テーマ別に、1.活動の成り立ちから福祉用具を考える、2.アセスメントの重要性、3.モニタリング時のポイント、4.生活環境支援と専門職多職種連携に分けてご説明していただきました。
1. 活動の成り立ちから福祉用具を考える
利用者の生活の可能性を広げる福祉用具として、加齢や疾病、障害などによって 生活の在り方が変容していく中にあっても、「これならできるかも!」と思える体験や気づきへの関わり方をしていくことが大切であります。「自分らしさ」と「その人らしさ」についても、客観的な支援者の価値観が「その人らしさ」に大きく影響を及ぼしています。例として、片麻痺の方が車いすを利用することで歩行能力が衰えるので使わないようにする等を挙げられ、何のために福祉用具を利用するのかを深堀していくことが大切でありますと話されました。また、「本人の意思決定能力は本人の個別能力だけでなく、 意思決定支援者の支援力によって変化する」(厚生労働省:認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン)を示され、重度のALS患者の在宅生活や軽度高齢者の施設生活等、どこで生活をしていても正解であり、支援者が「どういう風な生活を望んでいるのか」を常に考えていく責務があります。福祉用具選択時にも、活動の相互から捉える必要があり、トイレで転倒したからポータブルトイレを使用するではなく、昼夜の歩行状態や尿の感覚、自宅の環境等、総合的な議論が必要である。それぞれの専門職が対象者の生活を豊かにしていくためのヒントとして、ヒト(病気や障害、心身の状況)・コト(取り組みたいこと、困りごと)・モノ(生活環境、福祉用具)の相互作用を捉えた支援が大切でありますとのことでした。
2.アセスメントの重要性
疾病性・障害特性を理解したうえで、福祉用具や住宅改修等を検討して欲しいとのことでした。アセスメントのポイントとして、認知機能面(課題に対する対処プロセス)、背景を評価、生活時間で考える環境面の変化(昼夜を通じて検討していく)等を示していただけました。実際、小林先生が相談を受けたケースとして、①褥瘡になったためエアマット利用につなげたが、改善に至らなかったケース、②退院後家族希望でポータブルトイレを購入したが、一度も使用されなかったケース、③入院中は、トイレの失敗がなかったが、退院後、トイレが間に合わず失禁を繰り返したケース等を紹介していただきました。アセスメントにより、①褥瘡が、日中の座位時間の同姿勢により発生していたことが判明、②トイレの処理等の下の世話を家族や知人にしてもらうことが自分の価値の中で許せないことが判明、③病院と自宅では、作業遂行方法が異なっていることが判明しましたとのことでした。小林先生より、褥瘡だからエアマット使用、退院後はポータブルトイレ、病院と自宅での生活環境の違い等、安易に判断せずしっかり観察し、本人に説明することが支援の出発になるのではと話されました。
3. モニタリング時のポイント
ベッドの高さや角度等、前回との比較を丁寧にすることを挙げられ ました。また、時間経過を意識する視点では、原疾患に限らず加齢という変化や進行性の疾患に対して特に注意が必要であり、モニタリング期間の短縮や情報共有について説明していただけました。さらに、支援者の価値観・知識・経験を自己覚知しながら観察し、支援者自身が理解する情報には限界があることが知ってほしいと話されました。
小林先生より、①時間経過とともに首の保持ができなくなり、看護師が首を支えながらリフトを使用により自宅入浴するALSの方、②ポータブルトイレで排便の際、20分程度娘に支えてもらっているケースを紹介していただきました。モニタリングの結果①リフトの大きさ変更と首を支える補助具作成により、訪問介護員のみで入浴が可能になりました、②前にもたれられる補助具(台)を作成し、ポータブルトイレに設置することで自身のペースで排便が行えるようになりましたとの説明がありました。本人より、「出来ているから大丈夫です」と言われても、もう一歩踏み込んだ観点を持つことが大切であると話されました。
4. 生活環境支援と専門職多職種連携
難病の方に対し、多くの職種が関わったケースを紹介していただきました。難病の進行状況に応じ、生活環境を整えるために担当者会議以外にも、本人を交えながら多くの議論を重ねていったそうです。それにより、飼い猫との時間を大切にしたいとのことで、ソファーでの座位希望をされ、補助具利用により成功しましたと話されました。小林先生より、「事情と来歴を知る」として、人と関わる際は若い頃に何に打ち込み、何を大切にしていたのか知ることが大切であります。趣味等がライフワークの一環のなり、病気が進行しても、やり方や形を変え、工夫することで最期まで楽しく取り組めます。実現するように、支援者同士が同じ目標や方向で連携することが重要ですと話されました。他にも活動を維持するための嚥下往診との多職種連携についても紹介していただきました。ベッドと車いすでの角度差について、嚥下内視鏡(VE)を用いて嚥下しやすい角度を知り、家族にも安心して介助してもらうことにつながっていますと話されました。
最後に、小林先生より「潜在化しているニーズをいかに析出するか!」として、対象者が言葉にできず諦めているニーズ(潜在化しているニーズ)を拾い上げていくことが専門職のあるべき姿であります。職場内でも様々な専門職と議論を重ねて、経験値を積み上げていくことが大切でありますとの話がありました。また、利用者と生活環境が変化すると生活課題もおのずと広がり、対象者の生活も豊かになり、それを経験した支援者の専門職人生も豊かになると思っています。良い支援を事業者内で議論し、経験値を上げていってもらいたいですと話されました。
小林先生、遅くまで貴重なご講義ありがとうございました。
今回、ケアマネジャー・理学療法士・福祉用具等の関係者の方が多く参加され、皆さん最後まで頷きながら前のめりになり講義を聴講されている姿が印象的でした。様々な事例や写真を示していただくことで、より日々の業務と重なりリアルに感じられたのではないかと思いました。