第7波の新型コロナウイルスの感染者数も減少傾向になってきていますが、9月の未来塾も、なるコミにおいて感染対策には万全を期しながら、ハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「神経難病在宅のいろは~パーキンソン病を中心に~」でした。講師は、神崎 和紀先生(たぶせ在宅クリニック)(以下、先生)からご講義いただきました。今月の参加者は、Zoom参加者:23名(最大)・なるコミ聴講:19名:合計42名でした。
ご参加された皆さま、有難うございました。
今月も、イラストを使用しながら、①神経難病とは、②パーキンソン病について、③パーキンソン病でのよくある相談、④写真(使用許可済み)を用いての事例紹介、⑤神経内科外来通院患者への意識調査に分けてご講義していただきました。
①神経難病とは、脳や神経や筋肉の不具合による症状で、原因不明で治療法が確立されていない、珍しく、長期療養が必要である病気であると定義できると話されました。神経難病の多い症状として、手足の動き、会話、嚥下、歩行等が徐々に制限されてくる、遺伝性の病気である(両親・兄弟も同じ)、脳の不具合から物忘れや性格変化がある等、症状も多岐に渡るため難しい病気であるとのことでした。発症から最期までの経過をデーターで示され、認知症や老衰と同様に徐々になだらかに機能が低下し、家族の関わる時間が長いため、疲弊に繋がることもあると教わりました。和歌山市における神経難病別患者数(指定難病受給者証所持者数 (2022年2月2日時点)和歌山市保健所による集計)を示され、約800人中、6割超えの約500人の方が、パーキンソン病を患っておられ、診療や介護の場面でも担当する件数が多いのではとの説明がありました。
②通常、私たちの身体は大脳皮質からの指令が筋肉に伝わることによって動いており、指令を調節し、体の動きをスムーズにしているのがドーパミンであるとの話でした。先生は、ドーパミンを燃料に例え、パーキンソン病は、何らかの理由で作られるドーパミン(燃料)が減ることで、運動の仕組みがうまく働かず、身体の動きが不自由になるとのことでした。パーキンソン病の好発年齢は、50~60歳で、加齢とともに患者数も増加し、60歳以上では、なんと100人に1人が発症する。また、全世界においては、2015~40年の25年間で、600~1300万人の約2倍に増えるとも言われていると話されました。パーキンソン病は、発症から5~10年は、生活機能障害度の日常生活・通院にほとんど介助を要さない1度であるが、発症から10年を超えてくると、機能が低下し、部分~全面的な介助を要する2~3度になってくるとの説明がありました。パーキンソン病の4大症状には、無動・固縮・振戦・姿勢反射障害の運動症状があるが、他にも、便秘・抑うつ・認知障害・幻覚等の非運動症状もあり、症状は多彩であると話されました。
③よくある相談として、ⓐ「時間帯によって、動きに差があります。」、ⓑ「歩きにくい。 特に一歩目が出ません」、©「狭いところが歩きにくいです」、ⓓ「飲み込むときにむせます」、「パーキンソン病は治らないですか?」等の相談があるとのことでした。
ⓐの相談に対し、パーキンソン病の進行に合わせ、ドーパミンを受容できる範囲も狭くなることで、範囲を超えた際、動きにくくなることが考えられる。個々の症状の特徴に応じた生活リズムを組み立てることが大事であるとのことでした。
ⓑの相談に対し、パーキンソン病の運動症状の特徴として、「無意識な動きが減る」ことであり、例として、普段の声が小さくなる、喜怒哀楽の表情が少ない、歩幅が狭くなる、唾の飲み込みが減るため、ヨダレとして垂れることが多い等の説明がありました。歩く動作も普段、無意識なため、敢えて踵をつけて歩く、自宅の廊下に歩幅に合わせたテープを張る、自分で号令やリズムを作るなど歩行を意識してもらうことが大切であるとの説明がありました。
Ⓒの相談に対し、パーキンソン病の人は、「危ないな。暗いな。狭いな。」と思うと歩きにくさが増してくることがある。対応策として、手すり、人が通るとライトが点灯、足形のマークを床につけ、足をどの位置に置くと良いかを分かるようにすることも有効であるとの話しでした。
ⓓの相談に対し、発症15年で50%, 20年で74%の患者に嚥下障害があり、特に朝に状態が悪く、服用できないことで、1日の生活リズムが作れない人が多い。対応策として、薬を入れるために胃瘻を作るという選択肢があり、通常の栄養を補給するための胃瘻の役割ではなく、生活の質を上げるためであり、必要な選択肢であるとのことでした。
ⓔの相談に対し、難病で, 根治療法はまだ無いが、症状を改善する治療薬はある。難病の中でも、治療薬の種類が豊富にある。生活の目標を持ちながら、病気といかに付き合うかが大切である。パーキンソン病の方の運動には、ゆっくり大きく動く太極拳があっていると言われている。またカラオケも、意識的に声を出し、リラックスすることで、幸せホルモンと言われているドーパミンが出やすくなると考えられるので、リラックスできる趣味を沢山見つけてあげることが効果的になるのではと考えていますとの話しでした。
④事例紹介として、2事例紹介して頂きました。
1事例目は、写真を用いての紹介で、71歳のパーキンソン症候群の男性の方でした。ベルの練習に積極的に取り組み、ベルを自分仕様に作業療法士(OT)に作成してもらい、デイサービスでも練習するほどで、なんと、和歌山城ホールで仲間とコンサートが開催できるまでになった話でした。先生より、パーキンソン病の方でも、周囲のサポートする方達としっかりと目標を決めて、取り組むことで、実現できると思われるとのことでした。
2事例目は、81歳女性の方で看取りのケース紹介でした。10年前より、パーキンソン病を発症し、肺炎で入院後、寝たきり, 経口摂取不能になる。看取り目的で退院し、好きな音楽を流しながら家族とともに穏やかに過ごし、退院14日目 に永眠されたそうです。家族からも、「母の希望通りにしてやれてよかった」との声があったそうです。先生より、自宅で過ごしたい方に対し、自宅で看取ることは意味のあることである。パーキンソン病であっても、自宅で看取ることは可能なので、できる限り希望に沿っていきたいとのことでした。
⑤神経内科外来通院患者への意識調査として、3年前に123人に対しアンケートを実施した結果を公表していただきました。
㋐最期の時を迎える際, どこで過ごしたいと思いますか?の問いに対し、約80%の方が自宅、施設で過ごしたいと回答。病院の方が約15%であったという結果になりました。
㋑最期を迎える場所を考える際に, 重要だと思うこと?(複数回答)の問いに対し、苦痛なくすごせる、家族の負担にならないこと、信頼できる医師・看護師に看てもらえるが多くありました。
最後に、先生より、充実した療養生活の実現のためには、多くの制度利用、状態に応じた療養環境整備、他職種連携による目的共有、家族疲労への配慮、疾患の経過を理解したアプローチ・予後予測、連続する喪失体験, 意思決定への支援、いわゆる「患者・家族の状況・希望に応じたオーダーメイド医療・介護の提供」が神経難病の訪問診療を行っていくには不可欠であると話されました。
神崎先生、分かりやすい講義を遅くまでありがとうございました。