9月の未来塾も、なるコミにおいて感染対策には十分注意しながら、ハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「言語聴覚士の在宅医療の役割と現状」でした。講師は、山崎 良一先生(社会福祉法人琴の浦リハビリテーションセンター 所属)(以下、先生)からご講義いただきました。今月の参加者は、Zoom参加者:13名(最大)・なるコミ聴講:8名:合計21名でした。ご参加された皆さま、有難うございました。
今月も、イラストや写真を用いながら、①言語聴覚士の歴史と現状、②言語聴覚士の役割、③事例に分けてわかりやすくご講義いただきました。
① 言語聴覚士とは、Speech-Language-Herring Therapist(ST)の略であり、歴史は、理学療法士・作業療法士が1965年制定に対し、言語聴覚士法は1997年制定と、リハビリテーション領域では、32年の差がある新しい国家資格であるとの話がありました。言語聴覚士の推移を示され、1997年制定時の4,000人を皮切りに、毎年1,500~2,000人程度増えており、2023年時点では約40,000人の言語聴覚士資格者数がいるとのことでした。(ちなみに、理学療法士資格者数:約214,000人、作業療法士資格者数:約100,000人)また、和歌山県の言語聴覚士数は約160人であり、過去数年間は変動がなく、応募も少ない現状である。要因としては、県内に養成校がなく、知名度不足が考えられるのではないかとの説明がありました。全国的な所属機関データーを示され、医療機関が約75%、他の機関として、福祉機関:障害福祉センター、小児療育センター、老人保健施設など、学校機関:通級者指導教室、特別支援学校など、保健機関:保健所など多種多様な機関に所属されていることが理解できました。
② 言語聴覚士の対象となる代表的な障害として、ⓐ失語症(言語機能の障害)、ⓑ構音障害(話しことばの障害)、Ⓒ摂食・嚥下障害(食べる機能の障害)を挙げられました。
ⓐ失語症とは、脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷され、獲得した言語機能に障害を及ぼした状態である。言語機能の中には、「聴く」「話す」といった音声に関わる機能と「読む」「書く」といった文字に関わる機能に分けられるとの説明がありました。機能障害特徴の紹介として「聴く」では、日常の会話が外国語を聴いている感じである、また「たまご」等、音の認識はしているものの、その物の概念が理解できていないそうです。「読む」では、「かな文字」よりも「漢字」のほうが読めることが多いそうです。理由として「漢字」には、それぞれ形に意味があるため、見た目で理解しやすいのではないかとのことでした。
ⓑ構音障害とは、唇や舌、軟口蓋の障害等、神経や筋肉の病変により呂律が回りにくくなるなど、話すことに必要な運動機能に制限がでる言語障害であり、原因としては、脳卒中、パーキンソン病などがと考えられる。失語症との違いは、構音障害は、話し言葉の障害のため、筆談や五十音表での代償手段を使用してコミュニケーションが可能であるとの説明がありました。
Ⓒ摂食・嚥下障害とは、摂食は「食べる」、嚥下は「飲み込む」ことを意味し、総称してお口から食べることが障害されることである。原因として、器質的障害である癌等、機能的障害である脳血管障害等があり、言語聴覚士として、主に機能的障害に携わることが多いとの話でした。嚥下障害の合併症の一つとして、誤嚥性肺炎を挙げられ、日本人の死因第3位である肺炎の1/2~1/3が誤嚥性肺炎を占めており、肺炎死亡の95%以上が65歳以上であることを説明していただきました。また、唾液や細菌等を無意識に誤嚥し、咳やむせと症状がない「不顕性誤嚥」から、肺炎に繋がるケースが多いので注意してほしい。特に、口腔内細菌が増殖するため、就寝中での誤嚥が多く、口腔ケアの徹底をお願いしたいとのことでした。先生より、阪神淡路・東日本大震災後の2ヵ月以内に亡くなられた震災関連死での、最多数が「肺炎」であり、ほとんどが「誤嚥性肺炎」と報告されている。震災時は口腔ケアを行う水もないため、口腔内の汚れが誤嚥性肺炎につながったと考えられており、情報として知っておいてほしいとの話がありました。
訪問リハビリテーションへの相談の多くは、脳血管障害、パーキンソン病、筋ジストロフィー、認知症などから起こる「嚥下障害」である。相談内容として、食形態や嚥下機能評価、食べる姿勢や角度等が多く、家族やケア担当者にも、適切なとろみの固さ、補助栄養食の使用提案、口腔ケア等の指導等も行うことがあるそうです。
③事例を通して失語症の方への訓練について紹介していただきました。
㋐中程度の失語症
・読解、書字が困難な方に対し調理方法などの説明、ネット検索の文字入力の訓練
・社会参加のコミュニケーションが困難な方に対し、喚語訓練や迂回表現訓練。
㋑重度の失語症(自分の名前も言えない)
・コミュニケーションのツールとしてコミュニケーションノートの作成し、体調の記録や友人の名前、些細な出来事を書き留めコミュニケーションを行う。
・デイサービスや病院等で意思疎通通訳となり、本人の不安やトラブル回避を行う。
㋒重度の失語症(復職支援が目的)
・職場の方と会議を行い、コミュニケーション能力や注意点を伝える。
現在は、皆さま、社会参加や趣味への参加、また職場にも復帰できるようになった方もおられるとのご紹介がありました。
最後に、先生より、「病院から地域へ、施設から在宅へ」と医療の体制が大きくシフトしていくなかで、他のリハビリテーション領域ではサポートが行いにくい部分に対し、年齢や諦めなどで終わらせずにSTの介入により評価を行うことで、本人・家族・多職種と相談しながら最善の方法を導き出していくことが在宅でのSTの役割であるとのお話がありました。
山崎先生、大変貴重なご講義ありがとうございました。