「2024年医療介護の未来塾」が始まりました。今月も、なるコミにおいて感染対策には十分注意しながら、ハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「精神科の方から認知症を眺めてみた」。講師は、橋本 忠浩先生(紀の川病院 副院長)(以下、先生)からご講義いただきました。今月の参加者は、Zoom参加者:15名(最大)・なるコミ聴講:20名:合計35名でした。ご参加いただきました皆さま、有難うございました。
今月も、グラフやデーターを用いながら、①認知症とは、②認知症と紛らわしい病態、③認知症の治療に分けてわかりやすくご講義いただきました。
①認知症とは「一旦正常に発達した知能(脳)に、何らかの原因で記憶・判断力などの障害が起き,日常生活がうまく行えなくなるような病的状態」であり「アルツハイマー病」や「脳血管障害」によるものが多く、気持ちの問題ではなく、脳の病気であるとの話がありました。認知症の割合や人数をグラフで示され、認知症の方の人数は現在約730万人であるが、2050年になると日本の人口も約1億人と減少傾向である中、今後1000万人以上に増加すると予想されており10人に1人が発症する可能性がある。また、精神科病院での入院ベッド数も年々減少されている中、認知症の方のベッド数割合が年々増加していることが理解できました。認知症=記憶障害(物忘れ)として考えるのではなく、ADL(生活動作)・BPSD(行動と精神の症状)・認知機能の障害と3次元で捉えていく必要があり、先生自身も推奨されているとの話がありました。ADLでは、手段的ADL(服薬管理・金銭管理等)から基本的ADL(入浴・整容・歩行等)の低下が段々と起こってくる。BPSDでは、中核症状と周辺症状とを分けで考えるのではなく、一つの症状としてBPSD(行動と精神の症状)として捉えている。認知機能には複雑性機能(必要なことに集中を向ける力)、実行機能(計画を立て、適切に実行する力)など6項目に分かれており、記憶障害は認知機能の中のごく一部でしかないことを知っておいてほしいとの説明がありました。認知症進行に伴う3次元の低下や障害がどのように関わりあうのかを分かりやすくグラフで示していただきました。
認知症を病状別で分類し、約50%を占めるアルツハイマー型と約20%のレビー小体型にの特徴についてご説明していただきました。まず、アルツハイマー型では、CT画像による海馬の萎縮(バナナ型)、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)においては「日付の見当識・遅延再生」、「依存性」(相手に助けを求める)、「いい繕い」(新聞読まんのよ、毎日日曜日なんよ)、「答えを言っても全く覚えていない」が失点の特徴であり、同点の患者様であっても一つの特徴として捉えているとの話がありました。次に、レビー小体型認知症では、レビー小体というタンパク質が脳幹に広がるとパーキンソン病、大脳皮質に広がるとレビー小体型認知症であり、類縁疾患なため特徴にパーキンソン症状が発生しやすいのもそのせいである。また、認知機能は比較的保たれているため認知症ではないとの判断になるが、便秘や抑うつ症状を訴えられることが多く初期では診断が難しいとのことでした。
②認知症と紛らわしい病態として、MCI(軽度認知機能障害)、せん妄、うつ病についてご説明していただきました。
MCI(軽度認知機能障害)の特徴として、検査をすれば軽度異常ではあるが生活に支障がなく就業している方も多い。生活スタイルにより約40%の方が健常者への回復や軽度認知症に進行することがあるとのデーターも示していただきました。
せん妄の特徴は、体の病気によって生じる意識障害である。症状として特に夜間に発症し、夜間不眠・幻覚・支離滅裂に大声を発することがある。要因は準備因子(高齢や認知機能)・誘発因子(入院・施設入所などの環境変化)・直接因子(感染症・薬剤等)が引き金になりやすい。認知症とは別の病気であるが、BPSDとせん妄の判断が難しいとの説明がありました。
うつ病の特徴として、認知症初期症状のBPSD(不安・意欲の減退)と間違えられやすい。
うつ病による仮性認知症(以下、うつ病)と認知症による仮性うつ病(以下、認知症)の鑑別のポイントを示していただきました。うつ病では、もの忘れの自覚・深刻さ、またもの忘れに対する姿勢が誇張的であるのに対し、認知症では自覚・深刻さがなく、姿勢も取り繕い的である。典型的な妄想において、うつ病では心気妄想や貧困妄想に対し、認知症では物盗られ妄想や嫉妬妄想が現れる。先生より、高齢うつ病なりやすい人は、昔は妻・母・嫁・友人として等役割が多かったが、状況とともに段々役割が減った人が陥りがちであり、人間としてしっかり生きるために心を満たせる役割が大切であるとのご説明がありました。
③認知症の治療について、ⓐ生活習慣を整える。(禁酒、禁煙)、ⓑ内科的に整える。(高血圧、糖尿病、高脂血症)。©処方内容を整理する。ⓓ認知症の薬物療法を考える。ⓔ同居していない家族に状況を説明し、認知症への理解を促す。ⓕ介護認定(見直し)をする。ⓖ福祉を利用する。(訪問看護、ヘルパー、デイサービス、ショートステイなど)の7項目が挙げられました。Ⓒでは、高齢者で疾患別でかかりつけ医が増えると自ずと薬の種類も増えることがあり、認知症へのリスクも5種類以上から増えてくる可能性がある。ⓓでは、薬の副作用の検討、薬剤の量や経過に注意している。ⓖについては、抑うつ・社会的孤立・運動不足も認知症のリスクがあるのでしっかり利用してもらいたいとのご説明がありました。
最後に、先生も認知症の患者様の診察に対し実践している4種類のソーシャルサポート(社会的)支援についてご紹介していただきました。4種類のソーシャルサポート(社会的)支援とは、①情緒的サポート(聞いてあげる)、②情報的サポート(教えてあげる)、③道具的サポート(一緒にしてあげる)、④評価的サポート(褒めてあげる)ことであり、「話を聞いていく中でどういったことに困っているのか」に焦点をあてて話を聞くようにしているとのことでした。さらに、コミュニケーションの2つの側面には、情緒的コミュニケーション(挨拶・何気ない会話)と道具的コミュニケーション(業務遂行のための言葉)があり、情緒的コミュニケーションの上に、人間関係の形成・維持向上・緊張解消などの効果が表れ、道具的コミュニケーションがスムーズに保たれるので是非実践してもらいたいとの話がりました。
橋本先生、遅くまで大変貴重なご講義ありがとうございました。